2012/03/15

毎日新聞 2012年3月12日 東京夕刊より

毎日新聞 2012年3月12日 東京夕刊より。
アメリカンぼちぼちライフ:被災地は訴える=山科武司




 米オハイオ州のオーバリン大学で1日、福島第1原発事故をテーマにした展覧会が始まった。ニューヨーク在住の写真作家、武田慎平さん(30)の作品は、闇の中に無数の白い星雲が浮かび上がる、銀河系を写したような幻想的な写真だ。だが白い部分は、事故で地上に降り注いだ放射線の痕跡なのだ。

 フィルムが放射線に感光する性質を生かし、武田さんは岩手から千葉の各地で土や地表の枯れ葉を採取した。全く光を通さない状態でその上にネガフィルムを1カ月間置くと「銀河系」が現れた。展示された写真の素材は福島県二本松市で採取したコケ。「これほど鮮明に痕跡が焼き付けられるとは思わなかった」

 福島県須賀川市で生まれ、今も祖父母が暮らす。事故を自分なりに受け止めたいと制作を思い立った。「自分の死後も原発処理は続く。我々で処理できないことを子孫に残した」。採取しながらそう思い、胸が熱くなった。制作を続け、日本でも展示したいと考えている。

 「世界のみなさまに感謝とともに心から謝罪したいのです」。今月1日、国連本部の「婦人の地位委員会」に関するNGO(非政府組織)の集会で、福島市で果樹園を営む大内有子さん(52)の訴えが朗読された。「『私は将来、結婚できるか不安なんです』と小学生の女の子が話してくれました。少女は言います。『お母さんは毎晩泣いています。私たちを被ばくさせたことを気にして眠れないのです』」。大内さんに電話で尋ねると、少女は小学4年生。大内さんが参加する支援団体が行ったカウンセリングで聞いた話だった。大内さんは力を込めた。「日本には『福島で農業をすること自体がおかしい』と言う人もいます。でも私はここで梨を作り続けるほかないのです」

 宮城復興支援センターの船田究さん(36)の3歳の末っ子は、震災発生から3カ月間、親の服の裾を離さなかった。「私たちは子供を守らなくてはいけない」。船田さんは涙声になった。「被災者への支援を続けなくてはならないのです」。2日、ニューヨークで開かれた復興支援イベントでのことだ。日本酒や漬物など持ち込んだ宮城の物産は完売だった。「ここは温かい。国内は被災地の物産を買わなくなっている」と悔しそうだ。「被災地のものを買って食べるのが支援なのですが」

 遠く離れた地で聞く、被災地の言葉。その重みをかみしめ、できる支援を探している。(ニューヨーク支局)

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